フィットネス・スタートアップのPelotonが上場に向けてS-1を公開しました。熱狂的な人気を誇る同社の魅力に迫ってみましょう。
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フィットネス・スタートアップPelotonとは
Pelotonは2012年に設立されたフィットネス・スタートアップです。サイクリング好きの創業チームの人たちが、時間と場所に不自由しない新しいフィットネス体験を実現するために同社を作りました。
家でのフィットネス体験の改善に注力
Pelotonの主力製品はフィットネスバイク(2,245ドル〜)とランニングマシン(4,295ドル〜)です。それぞれディスプレイが前面に付いているのが特徴です。
さらに月額課金(39ドル)のメンバーシップへの登録が必須となっています。
Pelotonの特徴は人気インストラクターによるワークアウトをライブまたはオンデマンドでこれらマシンにストリーミングし、家にいながら様々なワークアウトメニューを体験できる点ですね。
これらコンテンツやBGMの作成ももちろんPelotonの専属チームが担っています。
ライブのワークアウトでは、同じクラスを選んだ世界中の人達と一緒にワークアウトを体験し競うことができるようで、リアルタイムに自分の順位や状態がディスプレイに映し出されることでモチベーションを高めつつ体験を他の仲間と共有できる仕組みです。
また高額なマシンを買いたくない人や他のワークアウトに興味がある人は、デジタルコンテンツの月額課金(19.49ドル+税)も利用可能です。iPadなどでコンテンツ配信を見ながら好きなワークアウトを体験できます。
Pelotonは一体なんの会社?
Pelotonはフィットネスマシンとコンテンツ配信の会社、とは簡単にくくれないビジョンを持っています。彼らの言葉によれば、
我々は
- テクノロジー
- メディア
- ソフトウェア
- プロダクト
- 体験
- フィットネス
- デザイン
- 小売
- アパレル
- 物流
の会社である。
と、一体なんの会社か混乱するくらい多岐にわたっています。
それぞれ別の事業というわけでは当然なく、全てはフィットネス体験に繋がっており、フィットネスコンテンツの製作からマシンやその中のソフトウェア開発、新たなフィットネス体験の作成、実店舗の運営、そしてマシンの物流も自社で担っています。
Pelotonとコンシューマが出会う全てのチャネルを自社でデザインしコントロールするという気概を感じますね。
熱狂的な会員を持つPeloton
徹底的にユーザ体験を磨き上げるPelotonには熱狂的な会員が多数存在します。一度このコミュニティにはまると抜け出す人はほぼ居ないようですね。
Facebookの公式ページは48万人以上がフォローしています。またウサイン・ボルトやヒュー・ジャックマン、ヴァージングループの創設者リチャード・ブランソンなど、世界の著名人やセレブリティもPeloton愛好者として知られています。
また熱狂的な会員の中にはPelotonのタトゥーを入れている人もいるそうです。
Pelotonが支持される理由の一つにはインストラクターの存在もあるようで、特に人気のインストラクターはInstagramのフォロワーが20万人を超える人もいますね。完全にインフルエンサーの域に達しています。
こうしたインストラクター達とのつながりを体験することもPelotonの人気の秘訣ですね。
出張先や旅先でもPeloton
Pelotonの成長戦略の一環として、2017年にマリオットのウェスティンホテルと提携してホテルの部屋やジムにPelotonのマシンを展開しました。
これで出張や旅行でも空き時間にいつものワークアウトができるわけですね。
その後も提携ホテルを拡大し、今では全米各地(ハワイも)と英国、カナダのホテルでPelotonを体験できます。
Pelotonの売上は倍々に成長
S-1によれば、Pelotonは2019年度(6月期)の売上高が9.15億ドルでした。 2018年度は4.35億ドルでしたので、+110.3%と倍以上の成長を見せています。
また2017年度は2.186億ドルでしたので2018年度も+99%とほぼ倍増の売上高でした。
セグメント別に見ると主力はバイクとランニングマシンのConnected Fitness Productsです。あとはほぼ月額課金のサブスクリプションが占めていますね。
売上高は毎年倍増している一方で損失も膨らんでおり、2018年度は-4,790万ドルの純損失でしたが2019年度には2億4,570万ドルにまで損失が拡大しています。このあたりは積極的な成長投資の結果としては仕方のないところですね。
非常に低いサービス解約率
Pelotonの人気を裏付ける数字として、非常に低い解約率(チャーンレート)が挙げられます。
月ごとの平均解約率を年度別に見ると、
- 2017年度:0.70%
- 2018年度:0.64%
- 2019年度:0.65%
と、一貫して1%未満の解約率を維持しています。いかに会員からの支持が高いかが伺えますね。
そんな会員数の推移ですが、
- 2017年度:107,708人
- 2018年度:245,667人
- 2019年度:511,202人
となっており、売上高同様にこちらも倍々に増加中です。この勢いなら近いうちに100万会員も達成しそうですね。
会員獲得コスト(Customer Acquisition Costs)の低さも興味深く、2019年度は1会員あたり5ドルのコストだったようです。比較対象が無いのではっきりとは分かりませんがこのコストはかなり低いんじゃないですかね。
LTVの増加が今後のポイント?
先程の解約率と月額課金料、および会員数をベースにライフタイムバリュー(LTV)を算出すると、
- 2017年度:$3,433
- 2018年度:$4,015
- 2019年度:$3,593
となっています。3,500〜4,000ドル付近が現在のLTVのようで、今後はどこまでLTVを伸ばせるかもポイントになりそうです。現在は月額課金が39ドル固定ですが、今後のコンテンツやサービスの拡充でプランを増やすこともあるかもしれませんね。
コンテンツ作成や競合などのリスク要因も
非常に魅力的なワークアウトコンテンツを持つPelotonですが、今年の3月にはコンテンツ内で使用した楽曲の著作権侵害で訴訟を起こされています。
Lady GagaがDrakeなどの人気アーティストの楽曲が許諾なくコンテンツ内で使用されていたとのことで、音楽出版社から1億5千万ドルを超える損害賠償を訴えられています。裁判の結果次第では多額の損害賠償を支払うことになるかもしれません。
今後はしっかりとライセンス許諾を結ぶか、あるいはオリジナル楽曲に注力するか、またはその両方か、いずれにせよカッコいいワークアウトコンテンツはPelotonの魅力の一つでしょうからコストを掛けても仕方ない部分ですかね。
またこの新しいフィットネス体験の業界には競合もいくつかおり、その中の一つFlywheelを相手取って特許侵害の訴訟をPelotonは起こしています。
Pelotonはマシン上のディスプレイに様々な統計情報を表示するのが特徴ですが、その技術に関する特許の侵害を訴えているようです。
競合のFlywheelやSoulCycleはフィットネススタジオを拠点としており、家庭内のフィットネスをターゲットとするPelotonとは異なるビジネスモデルですが、件のFlywheelが家庭用フィットネスマシンをリリースしたことでより明確に競合相手になってきました。
Flywheel版の家庭用マシンも同じような機能とデザインですね。
製品開発から配送まで、ユーザエクスペリエンスを徹底的にデザインするPelotonは熱狂的な会員に支えられて急成長していることが分かりました。
背景には健康ブームやフィットネスブームもあると思いますし、ブームが去った後や今後の景気後退時にも会員を維持できるかどうかが気になるところでしょうか。
Pelotonがただのブームではなく文字通り生活の一部になるかどうか、IPO後の成長にも期待を持って投資機会を伺いたいと思います。