先日にMicrosoftがクラウドサービスのシェアでAmazonを追い抜いたとのニュースが目に止まりました。実際のところはどうなのでしょうか。
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- MicrosoftがクラウドサービスのシェアでAmazonを逆転との記事
- IHS Markitの元記事を見てみる
- 結論:Microsoftは「クラウドサービスの売上高」のシェアでAmazonを追い抜いた
MicrosoftがクラウドサービスのシェアでAmazonを逆転との記事
クラウドサービスの世界シェアで、米マイクロソフト(Microsoft)が米アマゾン・ウェブ・サービス(Amazon Web Services)を逆転し首位に立ったことが2019年7月8日までに分かった。英IHSマークイットが調べた2018年の売上高ベースの市場シェアでマイクロソフトが対前年比2.4ポイント増の13.8%と大きく伸びたのに対し、AWSは同1.1ポイント増の13.2%にとどまった。
英国の調査会社IHS Markitの調査によると、2018年の売上高をベースにクラウドサービスの市場シェアを見るとMicrosoftがAmazonを逆転したとのことです。
確かに最近のMicrosoftはAzureが好調でクラウドビジネスが上手く回っている印象でしたが、長らくの王者Amazonを逆転したとなるといよいよ本格的にMicrosoftの天下が来たのかと感じますね。
一方で、この記事の内容に対して異を唱える意見もSNSやブログでいくつか見かけました。
「Office365を足すのはアンフェアだ」「Office365はAzureじゃないだろ」といった風な、Office365を調査対象に加えることへの違和感が多かったように感じます。
こうした違和感やある種の誤解は、読み手のクラウドサービスに対するバイアスも原因の一つかと思いますが、こういうときは1次情報を確認してみるのが良さそうです。
IHS Markitの元記事を見てみる
先程のニュースの元になったのは恐らくこちらのニュースだと思います。Microsoftの分析についての記述を引用してみます。
Microsoft in 2018 became the market share leader for total off-premises cloud service revenue with 13.8 percent share, bumping Amazon to the #2 spot with 13.2 percent; IBM was #3 with 8.8 percent revenue share. Microsoft’s success can be attributed to its comprehensive portfolio and the growth it is experiencing from its more advanced PaaS and CaaS offerings.
<意訳>
2018年、Microsoftは13.8%のシェアを獲得し、オフプレミスのクラウドサービスの総売上高で市場シェア・リーダーとなり、Amazonをシェア13.2%の2位に下げた。 IBMは3位で、8.8%の売上高シェアを記録した。
Microsoftの成功は、その包括的なポートフォリオと、より先進的なPaaS・CaaSの提供による成長に起因していると言えます。
この分析のポイントは、MicrosoftもAmazonも全クラウドサービスの総売上高を比較している点です。
決してAzureやAWSといった各社のクラウドサービス・ブランドの比較ではないです。
ここの解釈の違いが、先程のニュースに対する違和感や誤解の元ではないかと思います。
MicrosoftはクラウドサービスのAzureを提供していますが、同じくOffice365もSaaSに分類されるクラウドサービスですし、ビジネス・インテリジェンスツールのDynamics 365もSaaSです。
他にも昨年Microsoftが買収したGitHubもSaaSと言えるでしょう。
これらAzureやOffice365などがMicrosoft印のクラウドサービスなわけです。
同様にAmazonも非常に多くのクラウドサービスをAmazon Web Services(AWS)していますが、その多くはクラウドサービスの分類的にはIaaSとPaaSになりますね。
SaaSと呼べそうなものも少数ながらあります。例えば統合開発環境のCloud9はSaaSですかね。
これら全てを足し算したものがAmazonのクラウドサービスの総売上高となります。
以上を踏まえて、元記事の調査結果の表を見てみましょう。
2018年のクラウドサービスの売上高比較で、MicrosoftはSaaSが85億ドル、それ以外が約183億ドルで合計約268億ドルです。
対するAmazonはSaaSが3,200万ドル、それ以外が約256億ドルで合計約257億ドルですね。
見ての通り、MicrosoftのSaaSであるOffice365の貢献度が非常に高いです。もしSaaSを比較対象から外していたら、相変わらずAmazonの売上高がNo.1でした。
Microsoftのクラウドサービスの強みは、このSaaSとそれ以外のIaaSやPaaSも含めたバランスの良い包括的なポートフォリオを持っていることだと思いますね。
他にも下記の点が興味深かったです。
- IBMがSaaSではNo.1シェアを持っている
- GoogleのSaaS売上高は恐らくG Suiteだが、ライバルのMicrosoftと比べてもかなり低い
- MicrosoftのSaaSはSalesforceよりも売上高が高い
結論:Microsoftは「クラウドサービスの売上高」のシェアでAmazonを追い抜いた
元記事を確認しての私の結論ですが、元記事の意図はAzure vs AWSではなく全クラウドサービスの比較であり、Microsoftは「クラウドサービスの売上高」のシェアでAmazonを追い抜いた、と言えると思います。
もちろん元記事の数字が確かな場合ですけどね。
MicrosoftのクラウドサービスはAzure、Office365、Dynamics365など様々なサービスで構成されており、これらを分けて換算する理由は無いですね。
Amazonが得意なIaaS・PaaSだけを切り取って比較するのはやや恣意的に思います。またAzureとAWSで比較するのも、MicrosoftのAzureはクラウドサービス・ブランドの一部なのに対してAmazonは全クラウドサービスを持ち出すことになり、アンフェア感は否めません。
やはり比較するなら両社のクラウドサービスの全てを持ち寄らないとですね。
AmazonはSaaSが非常に弱いことがわかりましたが、MicrosoftのOfficeのようにアプリケーションを持っている訳ではないですので、もしここを強化するなら買収が手っ取り早いですかね。Office365みたいなオフィス用途や、会計・HRなどの会社業務など、最近はあらゆる分野でSaaS化が進展していますし、Amazonのエンタープライズ分野への進出を強化するシナリオも見てみたいです。
クラウドサービス市場におけるMicrosoftとAmazonのデッドヒートはまだまだこれからですね。

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