P&Gからの配当金をいただきました。P&Gの四半期決算は1月発表でしたのでおよそ一月前になりますが、良い機会ですので内容を振り返ってみて、P&Gの現状について把握しておきましょう。
P&Gの四半期決算
- EPS:1.19ドル(予想を0.05ドル上回る)
- 売上高:174億ドル(予想と一致)
- ガイダンス:年間EPS成長率 5%〜8%(前回の発表から+1%)
P&Gの四半期決算(FY2018Q2)はEPSが予想を上回りましたが売上高は予想通りという内容でした。またガイダンスではEPS成長率を1%上方修正しました。利益の改善が進んでいることが伺えます。
ちなみにP&Gの会計年度は7月開始ですので、Q1=7〜9月、Q2=10月〜12月(上記決算の期間)、Q3=1月〜3月、Q4=4月〜6月となります。
チャートで見る決算内容
四半期および半年の売上高比較(単位:百万ドル)
四半期と半年期間での売上高を前年同期比でみたチャートです。現在までのところ、どちらの期間でも売上高は増加していますね。増加率は2〜3%といったところです。
製品部門別の比較
P&Gは現在、製品カテゴリを以下の10カテゴリに定義しています。
決算報告ではこれらを下記5つの部門ごとにまとめて報告していますので、ここでもその部門単位に見ていきたいと思います。
製品部門別の売上高(単位:百万ドル)
10〜12月の四半期について、製品部門別に前年と比較したチャートです。売上高が最も大きい部門は台所用洗剤や住居用洗剤を扱う「Fabric & Home Care」部門でした。
他の部門は増加または横ばいに見えますね。もう少し部門ごとの状況を把握するため、部門別の成長率を見てみましょう。
製品部門別の成長率
成長率で見た場合、最も成長したのはシャンプー等のヘアケアとスキンケアを扱う「Beauty」部門でした。前年同期比で+10%の高成長です。
次いで大きな成長を示したのはオーラルケアと薬を扱う「Health Care」部門の+7%でした。これら2部門が成長を牽引している状況ですね。
一方、成長がマイナスとなったのはカミソリ等を扱う「Grooming」部門と、紙オムツや生理用品・ペーパータオル等を扱う「Baby, Feminine & Family Care」部門でした。どちらも-1%と僅かにマイナス成長です。これら製品カテゴリではP&Gの苦戦が伺えますね。
製品ブランドとしてはスキンケアのSK-IIとOlayが特に高成長しているようです。
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新たなビジネスモデルの脅威にさらされているP&G製品:髭剃り製品の場合
P&Gで低迷しているGrooming部門の看板製品といえば髭剃りのGillette(ジレット)ですね。髭剃り市場ではシェアが6割を超えているそうで、ライバルのSchick(シック)と合わせると2製品で市場の7〜8割のシェアとなる寡占市場です。
そんな圧倒的シェアを誇るGilletteがなぜ低迷しているのかというと、数年前に登場した新たな髭剃り製品の影響が大きいです。
その代表格がDollar Shave Club(ダラー・シェイブ・クラブ)です。
従来、髭剃り業界は替刃で儲けるビジネスモデルが中心でした。一度Gillette製品を買えば、消費者はGillette用の替刃を買い替え続けるというわけですね。プリンタとインクのビジネスモデルと同じです。
その従来ビジネスモデルに挑戦したのがDollar Shave Clubです。同社のユニークなビジネスモデルは破格の月額課金で替刃を定期的に送付するもので、最も安価な替刃は2枚刃が5個で月に1ドル(+送料2ドル)で購入可能です。非常に低コストにサービス利用を開始でき、またいつでも定期購入をキャンセル可能なため、消費者のトライアルを急速に獲得していきました。
そして昨年、P&Gのライバルでもあるユニリーバが10億ドル(約1,000億円)でDollar Shave Clubの買収を発表しました。ユニリーバのような大企業から見ても、彼らのビジネスモデルの将来性は魅力的だったのでしょう。
さらに寡占ビジネスの髭剃り業界に挑むスタートアップが増えてきました。メガネ業界出身というユニークな背景を持つHarry's(ハリーズ)もその一つです。Harry'sはドイツのメーカーとパートナーシップを組むことで、高品質な髭剃りを安価に提供することができました。Harry'sも月額課金での提供で、いつでもキャンセル可能です。
記事によれば2016年にはこのDollar Shave ClubとHarry'sで米国市場の12.2%を占めるまでに成長したようで、非常に高い成長率を維持しています。対するP&GのGilletteは2015年に米国市場のシェア59%を持っていましたが、2016年は54%にまで低下してしまいました。確実に市場シェアを奪われている状況が伺えます。
Gilletteも流石に黙ってみているわけにはいかず、昨年に似たような定期購入サービスの「Gillette On Demand」をローンチしました。また替刃の価格も下げ始めているようです。こうしたサービスの模倣や価格競争がGilletteにとって吉となるか、注意深く見ていこうと思います。
他にも山ほどある、スタートアップの脅威にさらされているP&G製品たち
Disrupting Procter & Gamble: The Startups Unbundling P&G and the Consumer Packaged Goods Industry
P&G製品でスタートアップの脅威にさらされているのは髭剃りだけではありません。上記の図は、P&Gの各製品の対抗・代替となり得るスタートアップたちの対応関係です。
ほぼ全ての製品と言っても良いくらいにP&G製品がスタートアップに包囲されている状況が見て取れますね。
もちろん今すぐに取って代わられるものではありませんし、SK-IIのように高成長しているブランドもあります。一方で、何十年も寡占市場だった髭剃り業界に風穴が開こうとしているように、トップの座に胡座をかくようにしているだけでは、他の製品たちもGilletteの二の舞いになるかもしれませんね。
P&Gはグローバルに強いブランドを多く抱えていますが、ぜひその座に甘んじることなくイノベーション創出を続けて欲しいです。低迷している株価も、P&Gのそういった成長への姿勢を結果で示せれば回復するのではと期待しています。