昨年11月にマイクロソフトと米陸軍がAR技術の提供について大型契約を結びましたが、そのことに対してマイクロソフトの一部従業員が反対声明を発表しました。
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マイクロソフト従業員による米陸軍契約への反対声明
マイクロソフトは昨年11月に米陸軍に対する技術提供で4億8,000万ドルの大型契約を交わしました。
提供される技術はHoloLensにも使われているAR技術を利用したもののようです。
米一般調達局(GSA)への提出書類によると、Microsoftは、戦闘任務や訓練で使用する拡張現実(AR)システム「HoloLens」のプロトタイプを米陸軍に供給する4億8000万ドル(約545億円)の契約を獲得したという。
Bloombergによると、この契約は「敵前における発見、判断、および交戦能力を強化して攻撃力を高める」プログラムの一環として、最終的に10万台を超えるARヘッドセットの軍事調達につながる可能性があるという。
この契約に対して、マイクロソフトの従業員の一部がこの契約を取り止めるよう反対声明を出しました。
反対声明ははじめは社内のみに展開されたようですが、その内容を公開するため「Microsoft Workers 4 Good (@MsWorkers4)」というアカウントを開設して、今は誰でも閲覧可能です。現在までに100名以上の従業員が署名しているとのことです。
On behalf of workers at Microsoft, we're releasing an open letter to Brad Smith and Satya Nadella, demanding for the cancelation of the IVAS contract with a call for stricter ethical guidelines.
— Microsoft Workers 4 Good (@MsWorkers4) 2019年2月22日
If you're a Microsoft employee you can sign at: https://t.co/958AhvIHO5 pic.twitter.com/uUZ5P4FJ7X
彼らの言い分としては、マイクロソフトの技術者は戦争の道具を作るために技術開発をしてきた訳ではなく、自分たちの作った技術が戦争で活用されることを望んでいない、といった内容です。
この声明の中で下記3点をサティア・ナデラ(CEO)とブラッド・スミス(プレジデント 兼 最高法務責任者)に要望しています。
IVAS(Integrated Visual Augmentation System)契約を解約する。
すべての武器技術の開発を中止し、この公約を明確にした公衆向けの受け入れ可能な使用方針を作成する。
その利用規定に準拠していることを強制し、公に検証する権限を持つ、独立した外部の倫理審査委員会を任命する。
もともとブラッド・スミスは10月に自社ブログにてマイクロソフトとして米軍を支援していく考えを表明していました。今回の従業員による反対表明に対してもこの姿勢は崩さないものと思われます。
Google、Amazonでも似たような動き
マイクロソフトに限らず最先端のテクノロジーを開発する企業は似たような状況を起こしやすいようです。
Googleの事例
Googleは自社のクラウドビジネスを強化すべく、国防総省の100億ドル規模の入札に参加予定でした。
しかしながらGoogle従業員からの反発が起こり、最終的には同社のAI指針に沿う内容かどうか確認できなかったとして参加を取りやめました。
グーグルの技術が戦争や人権侵害につながるような方法で使われることに対して多くの社員が今年に入り抗議した。これを受けて同社はAI技術使用に関する指針を公表した。
ただGoogleは完全に参加を諦めたという訳ではなく、複数企業による契約が可能だったなら参加していただろうとのことでした。
Googleは、単一ベンダーという要求が出されていなければ、応札していただろうと述べている。
本件についてはAmazonのAmazon Web Servicesが他社をリードしているとも言われており、ジェフ・ベゾスもマイクロソフト同様に米軍との契約には前向きな考えを表明しています。
Amazonの事例
Amazonの場合は彼らの持つ顔認識技術「Rekognition」が問題となりました。昨年に同技術が米国の捜査機関に提供されていることが判明し、人権団体から強い抗議を受けました。
さらにAmazonの従業員も顔認識技術の提供に対して抗議書をベゾスに送付していました。
抗議書の全文は下記から確認できます。
彼らの主張は顔認識技術が捜査当局に提供されることへの懸念に加え、AWSが移民税関捜査局(ICE)のシステム運用を担当する企業Palantirにも利用されている点も批判しています。
そして彼らはICEを運用するプラットフォームの構築と、人権を侵害する技術への貢献を拒否すると表明しています。また1940年台にIBM製品はヒトラーを支援するために使われたがIBMの役割が明らかになる頃には手遅れだった、我々は同じことは繰り返さない、行動すべきときは今だ、とも述べています。
それに対するAmazonの反応は、今後も同社の技術を機関に提供し続けるというものでした。国防総省プロジェクトの入札と同様に、Amazonの基本姿勢は変わらないようです。
昨今の人工知能の発展もあり、人工知能の倫理に関する動きが活発化している印象です。
この3社の中ではGoogleが少し引いた姿勢を見せていますが、今後も同じような議論は続きそうです。
ESG投資の観点から見ると、自分の技術が軍事利用や人権侵害に使われるかもしれないというイメージが企業についてしまうと、優秀な技術者の獲得に弊害が発生するかもしれません。特にAI分野は人材の取り合いと言われてますし、企業の倫理観をしっかりと示すことも人材獲得の点で大事に思いますね。
今回はマイクロソフト、Google、Amazonだけを取り上げましたが、Apple、Facebookといった残りのGAFAM企業も恐らく同様な課題を持っているでしょうし、その他のテクノロジー企業も同じ事態は起こりうるでしょう。今すぐに企業経営に影響を与えはしないでしょうが、こうした動きが長い目で与える影響には注視しておきたいと思います。