米国のヘルスケア関連企業を見ていきます。
トランプ政権となりオバマケアが見直される動きがあったり、結局撤回されたりと、年始早々に動きのあった業界ですので、先行きがちょっと不安定なようにも思います。
しかし投資先としては、人々の健康意識の高まりとともに魅力的な業界ではと考えています。
バンガード・米国ヘルスケア・セクターETF (VHT)を参考に
バンガード・米国ヘルスケア・セクターETF (VHT)は「ヘルスケア機器およびヘルスケア用品を製造する企業またはヘルスケア関連サービスを提供する企業、医薬品およびバイオテクノロジー 製品の研究・開発・製造・マーケティングを主たる業務とする企業で構成」されるETFです。
保有上位10銘柄と産業別構成比は下記のとおりです。
前回の記事で調べた米国高配当株式ETF(VYM)でも上位銘柄だったジョンソン&ジョンソンの割合がトップです。そのほか、VYMの保有割合の上位25銘柄に含まれるものとしてはファイザー、メルク、アムジェン、アッヴィの名があります。
産業別では医薬品とバイオテクノロジーで5割を占めています。
トランプ大統領は大統領選の頃から医薬品の価格が高いと繰り返し製薬業界を攻撃してきました。大統領就任後もTwitterでのツイートで物議を醸す発言を繰り返していますが、その影響で製薬会社の株価が下落していました。
また薬価引き下げの圧力により、製薬会社の利益率低下への懸念が市場に広がっているようです。
一方で米国時間5月23日に発表予定の予算案では薬価対策の予算はみられなかったそうです。オバマケア撤廃もそうですが、ヘルスケア業界はトランプ氏により色々とかき回されている印象が強いですね。
製薬会社の別の課題としては、医薬品の特許切れによる収益低下があるようです。最近では2010年前後に大型医薬品の特許が一斉に切れるという2010年問題がありました。
医薬品業界において2010年前後に大型医薬品の特許が一斉に切れ、各医薬メーカーの収益に重大な影響をもたらすと懸念されている問題である
特許の切れた医薬品はジェネリック医薬品として他社が販売できるため、新薬開発が収益源である製薬会社にとっての影響は甚大です。製薬会社は主力の医薬品が特許切れする前に次の新薬開発に成功しなければならず、ハイリスク・ハイリターンな業種と言えると思います。
経営状況を見てみる
ジョンソン&ジョンソン(JNJ)
年 | 純利益 | 営業CF | 売上高 | 営業CFマージン |
2014 | $16,323 | $18,710 | $74,331 | 25.2% |
2015 | $15,409 | $19,569 | $70,074 | 27.9% |
2016 | $16,540 | $18,767 | $71,890 | 26.1% |
(単位:百万ドル)
営業CFは上下していますが営業CFマージンは25%以上と優れた経営状況です。連続増配の企業としても有名ですし、ぜひ投資したい銘柄です。
最近では競合医薬品による収益低下のリカバリとして大型買収に踏み切っていました。J&Jにかぎらず製薬業界は統廃合が盛んな業界という印象があります。
もう一つこの業界の印象としては、企業は常に訴訟リスクにさらされているという点があります。J&Jもそいうったニュースがありました。
その他、下記の参考書籍によれば、株価を動かす要因としては下記が挙げられるとのことです。
- 新薬開発の成否
- 競合する新薬候補品の動向
- 業績の安定度
- 訴訟リスク
- M&A/合併
ファイザー(PFE)
年 | 純利益 | 営業CF | 売上高 | 営業CFマージン |
2014 | $9,135 | $17,084 | $49,605 | 34.4% |
2015 | $6,960 | $14,688 | $48,851 | 30.1% |
2016 | $7,215 | $15,901 | $52,824 | 30.1% |
(単位:百万ドル)
営業CFはやや減少傾向に見えますが、営業CFマージンは30%超えです。
低調な決算から回復するため、同業の買収または大手同業との合併が必要と市場は考えているようです。医薬品の特許切れによる収益の大幅な低下を経験しているだけに、いち早い成長ドライバーの獲得が市場アピールに不可欠と思います。
メルク(MRK)
年 | 純利益 | 営業CF | 売上高 | 営業CFマージン |
2014 | $11,920 | $7,989 | $42,237 | 18.9% |
2015 | $4,442 | $12,538 | $39,498 | 31.7% |
2016 | $3,920 | $10,376 | $39,807 | 26.1% |
(単位:百万ドル)
2015年に特許切れによる大幅な減益となったようです。ただ営業CFマージンは高めです。
メルクは新規アルツハイマー病治療薬の候補化合物について、全世界における独占的開発・製造・販売権を供与するライセンス契約を帝人ファーマと締結しました。世界的に進行する高齢化社会に向けての動きに思います。
先日には通期の業績見通しの引き上げを発表しました。
アムジェン(AMGN)
年 | 純利益 | 営業CF | 売上高 | 営業CFマージン |
2014 | $5,158 | $8,952 | $20,063 | 44.6% |
2015 | $6,939 | $9,731 | $21,662 | 44.9% |
2016 | $7,722 | $10,354 | $21,662 | 47.8% |
(単位:百万ドル)
アムジェンは世界最大の独立バイオテクノロジー企業になります。営業CFは年々増加で、営業CFマージンは40%超えと、非常に好調な経営状況に思います。
一方で、新薬の売上高についてはやや市場の期待を裏切ったようです。また骨粗しょう症の新薬も市場投入が遅れるとの言及があり、今後も好調をキープできるかはわからない状況です。
アムジェンが軟調 骨粗しょう症薬の年内承認は難しいと言及=米国株個別 | 為替ニュース | Klug FX(クルークFX)
また別の観点として、米国のビザ規制強化がバイオ企業の研究者獲得を妨げる一因になりうるとのことで、人材の点でも不安がみてとれます。
アッヴィ(ABBV)
年 | 純利益 | 営業CF | 売上高 | 営業CFマージン |
2014 | $1,774 | $3,549 | $19,960 | 17.8% |
2015 | $5,144 | $7,535 | $22,859 | 33.0% |
2016 | $5,953 | $7,041 | $25,638 | 27.5% |
(単位:百万ドル)
アッヴィもバイオ医薬品企業です。2015年に営業CFが倍増して営業CFマージンも急増しています。
アッヴィは1年前にがん治療薬開発のステムセントルクスを買収しました。
動向としては、売上の6割以上を占める主力医薬品のヒュミラが特許切れを迎えるにあたり、新しい医薬品の市場投入や競合製品の登場などに気を配る必要がありそうです。
抗リウマチ薬ヒュミラ 16年特許切れでもプラス成長か 米でバイオ後続品の上市困難で | 市場調査 | 国内ニュース | ニュース | ミクスOnline
ヘルスケア業界自体は、ウェアラブル・デバイスの普及による消費者の健康への関心の高まりもあり、今後も盛り上がっていくと思います。
一方で製薬企業は相変わらずハイリスク・ハイリターンであり、銘柄として考えるとディフェンシブ銘柄とは言い難い面もあります。
この業界への投資候補としては、製薬以外にも手広く手がけるジョンソン&ジョンソンを第一候補として考えたいと思っています。