S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスとMSCIが提案中のGICSセクターの見直しについて、早ければ11月に何かしら発表がある予定です。今回は事の経緯と想定される影響について調べてみました。
S&P500のセクターについて
S&P500の構成銘柄は世界産業分類基準(GICS:Global Industry Classification Standard)に基づいてセクター分けしています。
Global Industry Classification Standardの略称で、1999年に米国の格付機関であるS&P(スタンダード・アンド・プアーズ)と機関投資家向けに指数や分析ツールを提供するMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)が共同開発した産業分類のこと。世界の産業を10のセクター、24の産業グループ、67の産業、156の産業サブグループに分類している。
世界中の金融機関で標準化されており、投資信託や企業分析で業種分類する際に多用されている。
実は上記の情報はちょっと古くて、GICSは2016年8月31日に金融セクターから『不動産』が分離することで11番目のセクターとして『不動産セクター』が誕生しました。という訳で今は11セクターに産業を分類しています。
不動産セクター誕生の背景として、もともと金融セクターに属してた不動産関連企業の多くはREIT(不動産投資信託)であり、それらは収入の殆どが賃貸収入であったり、利益のほとんどを配当として支払うなど、金融会社とは大きく異る収益構造であったことから今回の分離&新規セクター設立に至ったようです。
このように、企業のビジネス形態や時代の世相を考慮して、GICSは適宜見直されています。
今回のGICSの見直しについて
今回の見直しは主に電気通信セクターに関するものです。こちらのプレゼンに分かりやすくまとまっていましたのでいくつか引用します。
今回の見直しの背景をかいつまんで言うと
- 電気通信サービスセクター(AT&T、ベライゾンなど)の企業はM&Aなどによりビジネスが多角化しており、最早純粋に「電気通信事業」とは言えないのでは?
- また同セクターは一部企業による寡占化が進んでいる(AT&Tとベライゾンですね)
- もう一つ、『情報技術セクター』サブカテゴリの『インターネットサービス&ソフトウェア』は非常に大きくかつ多様になり、一口にインターネットサービスとは言えなくなっているので、ここも見直したい
ということかと思います。
事実、S&P500における電気通信サービス・セクターはAT&T、ベライゾン、センチュリー・リンクの3社のみであり、特にAT&Tとベライゾンが同セクターを寡占している状況に思います。
また『情報技術セクター』サブカテゴリの『インターネットサービス&ソフトウェア』に分類される企業はアルファベット、Facebook、VISA、マスターカード、ネットフリックス、Salesforceなど多種多様なビジネス形態の企業で占められており、『インターネットサービス&ソフトウェア』がやや広すぎるサブカテゴリに感じますね。
そういった背景から、『電気通信サービス・セクター』カテゴリと『インターネットサービス&ソフトウェア』サブカテゴリを見直したいというのがS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスとMSCIの提案です。
S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスとMSCIの提案内容
彼らの提案内容は下記の通りです。
- 『電気通信サービス・セクター』を『コミュニケーション・サービス・セクター』に名称変更する
- もともと『電気通信サービス・セクター』に含まれていた企業は、名称変更後の『コミュニケーション・サービス・セクター』の下に移動して『電気通信サービス』産業グループとなる
- 『一般消費財サービス・セクター』にあった『メディア産業』グループは、『コミュニケーション・サービス・セクター』へ移動する
- 新たに『消費者インターネットおよびデジタル・サービス』産業グループを『コミュニケーション・サービス・セクター』に新設する
これら提案を図示すると下のようになります。
この提案に対する論点
もしこの提案が可決されたとして、気になる点は色々とでてきます。
- 検索エンジンやSNSサービスは、新設の『コミュニケーション・サービス・セクター』に分類される?【例】Alphabet、Facebookなど
- 動画配信サービスは『メディア・娯楽』産業か『消費者インターネットおよびデジタル・サービス』産業か?【例】ネットフリックス
- クラウドコンピューティングやデータセンターを事業として提供する企業は、『情報技術セクター』か『コミュニケーション・サービス・セクター』か?
などの議論テーマが先のプレゼン資料に記載されていました。
つまり今回の提案の影響として、特に『情報技術セクター』に現在分類されている企業の分類が変更されるかもしれない点が挙げられます。
GICS変更により考えられる影響
投資ファンドの場合
ETFや投資信託を運用するファンドとしては、GICSのセクター変更により各ETFが保有する銘柄を変える必要が出てくるでしょうね。
例えばAlphabetやFacebookが今の『情報技術セクター』から『コミュニケーション・サービス・セクター』へ移動すると、それらをトップ10に組み込んでいるバンガードのVGTやステート・ストリートのXLKは保有銘柄から外さなければなりません。
現在のAlphabetとFacebookのビジネス形態からすれば、ハイテク銘柄と言うよりは『広告』の産業グループへ再編されるかもしれないとBarron'sの記事で指摘されていました。
また同様の理由から、アドビ・システムズやセールスフォース、調査会社のニールセンなども、『メディア・娯楽』の産業グループへ再編される可能性があるのとのことです。
これらのセクター再編により、バンガードやブラックロック、ステート・ストリートなどの運用会社はETF組入銘柄の見直しにせまられるでしょうね。その結果、一時的に不要な銘柄の売却が発生するかもしれなく、株式市場にも何かしら影響が見られるかもしれません。
個人投資家の場合
個人投資家(特に米国株投資家)の場合は、自身のポートフォリオの見直しが発生するかもしれません。
例えば私も保有するAT&Tとベライゾンが今の『電気通信セクター』から『コミュニケーション・サービス・セクター』に変更され、さらに『情報技術セクター』のいくつかが『コミュニケーション・サービス・セクター』に変更されると、途端にポートフォリオ内の『コミュニケーション・サービス・セクター』の占める割合が急増するかもしれません。同時に『情報技術セクター』の割合も減少しますね。
ポートフォリオのバランスを考えて投資している方ほど、今回のセクター変更によりポートフォリオの見直しを余儀なくされるのではないでしょうか。私のポートフォリオ的には『電気通信セクター』のAT&Tとベライゾンが最も影響を受けると予想されますが、実際にどうなるかは正式発表を見てみないと分からいないですね。
GICSのセクター変更については元々は2017年11月までに発表されるとなっていましたので、遅くとも年内には何か発表があるのではと思います。