先月のアマゾンによるホールフーズ買収は小売業だけでなく様々な業種に衝撃を与えました。
買収の目的については色々と推測されますが、その一つの可能性としてブルー・エプロンと同様のビジネス展開をするのでは、という分析があります。
ミール・キット・デリバリーの雄、ブルー・エプロン(Blue Apron、APRN)
ブルー・エプロンは食材とレシピを合わせて定期的に宅配してくれるサービスです。所謂ミール・キット・デリバリーと呼ばれるサービスになります。日本でも同様のサービスはいくつか見かけますね。
こういうサービス自体は飛び切り目新しいわけでもなさそうですし、事実同様のサービスは少なくないと思いますが、中でもブルー・エプロンはその支持率の高さや急成長ぶりで非常に注目を集める企業です。
ブルー・エプロンの何が他のサービスと比べて優れているかは、下記のサイトに詳しく解説されています。
大きくは下記3点で他のサービスと一線を画しているようです。
- 食材のこだわり
- レシピのオリジナリティ
- ミールキットに調味料込み
例えば食材へのこだわりとして、契約農家とのパートナーシップに力を入れていることがサイトで説明されています。
Blue Apron: Fresh Ingredients, Original Recipes, Delivered to You
レシピ例としてサイトのトップページに下記の料理が表示されていました。味噌ベースのチキンラーメンとのことです。調理前・調理後のイメージには食材へのこだわりとして東京スタイルの麺や(米国では珍しい食材の一つ)エノキダケが紹介されています。こういった食材を個人で買い揃えようとすると米国では難しいのでしょうが、ブルー・エプロンを利用することでレシピとともに宅配されるわけですね。
こういったミール・キット・デリバリーのサービスが流行っている理由については下記が詳しいです。
いま米国でミールキット・デリバリーが急成長している背景には、いくつかの理由があるようだ。
まず、ミールキット・デリバリーは、ヘルシー志向になりつつある米国人のライフスタイルに、うまくマッチしている。
米国では都市部を中心に、ヘルシーな食事が好まれるようになってきており、オーガニックや地元の新鮮な食材を使った「ホームメイド系」料理のニーズが高まっている。
そのため、デリバリーで届く新鮮な食材や調味料を使って、同封されているレシピ通りに調理するだけでプロ並みの料理が自宅で作れるミールキットは、食にこだわりを持つターゲット層にウケているのだ。
さらに、「Blue Apron」は150軒もの農家と直接契約して、スーパーよりも新鮮で高品質な食材や珍しい食材を提供できる仕組みを作り上げている。それもまた人気が高まっている理由となっている。
ミールキット・デリバリーの魅力は、他にもある。
忙しい現代人にとって、一番の魅力は効率がいいことだ。いちいち買い物に行く手間がかからないし、時間も節約できる。珍しい食材が必要なメニューが食べたくなっても、お店をハシゴして材料を探す必要はない。デリバリーで一度にすべての材料がそろうからだ。クルマを持っていない人にとってもかなり便利だ。
その上、ミールキットには必要となる分量の食材がセットされているので、食材を使い切れずに捨てるなんていう心配もない。しかも調味料も必要な分量だけがパッケージになっているので、計量する手間もいらないのだ。
デリバリーで届いた箱を開ければ、すぐに料理が始められる。また、夕食のメニューに頭を悩ませる必要もなくなるし、作ったことのない新しいレシピにもチャレンジしやすいという魅力もある。
- 今の米国ではヘルシー志向の消費者が増えていること
- 必要な分量の食材と調味料が宅配されるため手間がかからず効率的なこと
といった点で、今の米国ではこういったサービスが支持されているようです。
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アマゾンのホールフーズ買収はミール・キット・デリバリーへの参入が目的か
ブルー・エプロンに代表されるミール・キット・デリバリーのビジネスについて
Marketo Hackの広瀬氏によると、アマゾンのホールフーズ買収の目的はミール・キット・デリバリーへの参入ではないか、との興味深い指摘です。先に述べたようにミール・キット・デリバリーが米国で支持を集めており、アマゾンとしてもそこへの参入を考えないわけはないでしょう。
ホールフーズ自体はオーガニック食品にこだわったスーパーマーケットです。ブルー・エプロン同様に地元の契約農家からの野菜も扱っています。売り場の雰囲気は下記記事で確認できます。非常に多くのオーガニック食品を扱っており、見ているだけでも楽しい売り場ですね。
アマゾンがホールフーズを買収することで得られるものとしてこの実店舗もありますが、その他にはオーガニック食品を扱う契約農家とのチャネルも手に入るのが大きいです。地元の農家と長年の付き合いのあるホールフーズの真似をアマゾン単独でしようとしても、そう簡単には既存の農家も鞍替えをしないでしょう。彼らもホールフーズの理念に賛同して食品を卸しているはずです。
米国で支持を伸ばしている消費者向けビジネスであるミール・キット・デリバリーへの参入をアマゾンが考えたとしたら、オンライン販売や配送面について問題ないとして、足りないのは消費者が求めるオーガニック食材の安定供給ですね。それに対してホールフーズを買収することにより、食品の供給元ごと手に入れることができたわけです。あとはサービスとして必要なパーツを組み合わせて構築するのみ。近々、そういったデリバリーサービスがアマゾンから発表されるのかもしれません。
ホールフーズ買収がブルー・エプロンに与えた影響
先日にニューヨーク証券取引所に新規株式公開(IPO)したばかりのブルー・エプロン(APRN)ですが、IPO価格を3割ほど下げての株式公開となったようです。
近くIPO(新規株式公開)を控えるレシピ付き食材配達サービスを展開するブルーエプロンはIPO価格を10〜11ドルへ引き下げ従来の15〜17ドルから34%とという大幅な引き下げを行なった。
(中略)
何が起きたのか?:今回のIPO価格の大幅な引き下げの背後にはアマゾンによるホールフーズ・マーケットの買収が見える。ブルーエプロンはECの巨人であるアマゾンがホールフーズと同社が抱える多数のリアル店舗を利用し同様のサービスを展開する可能性の脅威を投資家らに対して喚起を行なっている。ただし、同社は公式にアマゾンを言及しておらず、他の要因が今回の引き下げにつながった可能性は完全には否定できない。
やはりアマゾンの買収の影響は少なからずあったようです。IPO後のブルー・エプロンの株価は現在まで減少傾向にあります。ここからどう盛り返すか、アマゾンの動向と共に注目したいところです。
米国のオーガニック食品志向のトレンドに応える形で広がっているミール・キット・デリバリーのビジネスですが、このビジネス自体はまだまだ日が浅く、それだけ成長の余地を残していると思われます。
それに対して独自の強みを持つブルー・エプロンが最も勢いがあるわけですが、豊富な資金でホールフーズ買収という思い切った戦略を取ったアマゾンのことを彼らは非常に脅威に感じていることでしょう。アマゾンによるミール・キット・デリバリーが本当にリリースされるのか、その日が来るまでこの業界には要注目ですね。