昨今、勢いの止まらないアマゾンにより、小売業は大きな打撃を受けている印象です。ホールフーズ買収のニュースも衝撃でした。しかし、実は小売業の衰退の大きな要因はアマゾンではないとの指摘がありました。
小売業衰退の2つの要因
BUSINESS INSIDERの記事によると、昨今の米国で大量発生している小売業閉店の大きな原因は、アマゾンに代表されるオンライン・ショッピングの普及ではないそうです。
#大量閉店については下記をご覧ください。
上記記事によると、
オンラインショッピングの売り上げは急速に伸びていて、直近の四半期で15%増となった。小売業全体では、4%増にとどまっている。
しかし、eコマースの売上高は、金額にして小売業全体の8.5%に過ぎない。残りの91.5%は、未だ実店舗での買い物だとアメリカ国勢調査局のデータが示している。
とのことで、小売業全体の売上の9割以上はまだ実店舗での買い物が占めていると報告されています。思った以上にオンライン・ショッピングの占める割合が小さいという印象と、同時にまだまだ実店舗の重要性が高いという印象を抱きました。
アメリカの小売業低迷の背景には様々な要因があり、原因を1つに絞ることはできない。もちろん、オンラインでの売り上げの成長も無視することはできない。
しかし、それ以上に、間違いなく影響を及ぼしている要因が2つある。小売業者の過剰出店とアメリカ人の消費習慣の変化だ。
記事では小売業に悪影響を及ぼした主な原因として、
- 小売業の過剰な出店
- 米国での消費習慣の変化
を挙げています。
将来を楽観しながらいつか需要が追いつくと考え出店を続けた結果、米国の不況突入の影響もあり想定とは程遠い需要の伸びしか得られず、過剰に出店した店舗を次々と閉店しているのが現状のようです。
また昨今では消費者はモノより体験を重視する傾向にあり、特にインスタグラムのようなSNSで注目を集める「体験」ネタを欲する消費者が急増した結果、店舗に足を運んでモノを購入する消費者が減っていると言えそうです。日本でもソーシャルウェブ映えしそうなイベントはすぐにニュース上で広まる傾向にあるように感じますね。
そんな中で盛況な小売業の業態とは
また、いざ「モノ」を買うとなっても、消費者の大半は正規の価格を支払うことはない。不況時に学び、それ以来身に付いた消費習慣だ。シアーズやメイシーズといった正規の価格で販売する百貨店が苦しみもがく一方、TJマックス(TJ Maxx)やマーシャルズ(Marshals)、ロス・ストアーズ(Ross Stores)などのディスカウントストアは盛況だ。
米国の不況時代を経験してきたことで、消費者はなるべく安くモノを購入する習慣が身についたようで、上記のようなディスカウント・ストアが盛況とのことです。
各社の経営状況を見てみます。
TJX Companies(TJマックス、マーシャルズを経営)
年 | 純利益 | 営業CF | 売上高 | 営業CFマージン |
2014 | $2,215 | $3,008 | $29,078 | 10.3% |
2015 | $2,277 | $2,937 | $30,944 | 9.5% |
2016 | $2,298 | $3,601 | $33,183 | 10.9% |
(単位:百万ドル)
ロス・ストアーズ(ROST)
年 | 純利益 | 営業CF | 売上高 | 営業CFマージン |
2014 | $924 | $1,372 | $11,041 | 12.4% |
2015 | $1,020 | $1,326 | $11,939 | 11.1% |
2016 | $1,117 | $1,558 | $12,866 | 12.1% |
(単位:百万ドル)
どちらも売上高と純利益が年々増加していますね。営業CFマージンは10%〜12%あたりで安定しているようです。確かに好調さを維持しているように見えます。
好調さを裏付けるように、ロス・ストアーズはこの6月と7月に15の州で新規に28店舗を開店し、2017年全体で90店舗を開店予定とのことです。波に乗っていますね。
そんなディスカウント・ストア(またはオフプライス・ストア)の好調さを既存の百貨店もただ黙ってみているわけではなく、良い部分は取り入れることでなんとか生き残りの道を探っているようです。例えばメーシーズはTJマックスの戦略を自社に取り込む方針を立てているとのことで、この方針は他の百貨店も追従するかもしれません。
増収増益で急成長しているオフプライスストア業界では米TJマックスが有名だが、ジェネッテCEOは、「TJマックスのビジネスモデルを同社の伝統的な百貨店事業に取り込んでいきたい」としている。
アマゾンを筆頭としたオンライン・ショッピングにより劣勢に立たされたかと思っていた米国の小売業ですが、事はそんなに単純ではないようで、小売業自身の戦略の甘さと消費者側の購買行動の変化に代表される複合的な要因によるものと考えられそうです。
そして小売業全体で見たときにはオンライン・ショッピングはまだ1割程度の売上高を占めるのみであり、その占有率を今後も伸ばし続けることができるのかが気になります。あるいは、アマゾンがホールフーズを買収して実店舗への比重を高めようとしていることからも、これまでと同じかそれ以上に各社の実店舗での売上競争が激化するのかもしれませんね。
オンライン・ショッピング、実店舗、デリバリーや店舗受け取りといった小売業サービスの黄金比をいち早く見つけることのできた企業にアドバンテージがあるのではと思います。