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【ESG投資シリーズ②】なぜESG投資をしているのか?

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前回の記事では「だれがESG投資をしているのか」について簡単にまとめました。今回はその投資理由、「なぜESG投資をしているのか」についてです。

 

 

参考文献

ESG投資 新しい資本主義のかたち

ESG投資 新しい資本主義のかたち

 

 

前回記事:だれがESG投資をしているのか?

www.us-stock-investor.com

 

ブラックロックが銃メーカーと銃を扱う小売を投資対象から除外

www.nikkei.com

ESG投資に関連するニュースとして上記ニュースが飛び込んできました。

米資産運用最大手ブラックロックは5日、一部の上場投資信託(ETF)と退職年金基金向けのファンドから銃器メーカーとそれを販売する大手小売店の株式を投資対象から除外すると発表した。銃規制の強化を求める世論や、年金基金など機関投資家からの要望が強まっているため。小売店の株にはウォルマートや食品スーパー大手クローガーが含まれている。

記事によれば、ブラックロックが運用するETFの一部について、ESG投資観点から銃メーカーおよび銃を扱う小売をETFの投資対象から除外するとブラックロックが発表したとのことです。

 

除外対象の小売にはウォルマートも含まれます。ウォルマートは銃を購入できる最低年齢を21歳以上に引き上げるとの方針を発表していますが、ブラックロックのESG投資方針はさらに厳格に銃規制のリスクに対処するものです。

 

ウォルマートのような大企業を投資対象から除外することは投資リターンにも影響を与えると思いますが、なぜそうまでしてESG投資を進めるのかについて今回は取り上げます。

 

なぜESG投資をしているのか

ESG投資をする理由は投資をする組織によって異なり得るでしょうが、参考文献によればその大枠は下記のように大別できます。

  • 財務的な動機
    • 投資のリスクや機会
    • ユニバーサル・オーナーシップ
  • 非財務的な動機

 

財務的な動機:投資のリスクや機会

ESG投資のように「環境や社会に配慮した投資」というと利益を犠牲にしてでもそうした投資をするようなイメージもあるかと思いますが、ESG投資の考え方ではむしろその逆です。

 

環境・社会・ガバナンスのESG要因は長期的にみると下記のようなリスクまたは機会に関わると考えられます。

  • 規制リスク
  • 企業のレピュテーション(評判)リスク
  • ESG要因が新たなビジネス機会となる
  • 未だ市場評価に反映されていない収益機会となる

 

先のブラックロックのニュースでは、銃規制による銃メーカーの財務悪化リスクや、銃を取り扱う小売業を消費者が敬遠することで小売業の財務悪化が生じる懸念など、ESG観点で主にリスク回避のための方針決定に思います。

 

またESG要因が財務的なパフォーマンスに関わるという点についてはすでに多くの実証研究が発表されているようで、そういった要因を考慮することは投資家としての合理的な判断といえそうです。

 

ESG要因は時間軸で考えることが大事

著者によればESGに関わる問題と財務的要素との関係は時間軸で考えることが重要です。

例えば気候問題や長時間労働、女性の働きやすさといった観点は過去には問題視されていませんでしたが、今ではこれら観点へ対応していないことは経営上のリスクと捉えられます。

一定の時間軸で考えれば、社会にとって重要なESG課題の多くはやがて財務的要素になってくると考えられます。

投資家としてはそれをどれだけ先取りして考えるか、どれだけ長期的視野で考えられるかが重要になってきます。

 

財務的な動機:ユニバーサル・オーナーシップ

巨額の資金を擁し、幅広い企業に分散投資する投資家をユニバーサル・オーナーと呼ぶそうです。

市場のほぼ全ての銘柄に投資をするユニバーサル・オーナーは結果として経済全体の動向から影響を受け、彼らにとってESG投資は個別企業のリスクや機会を超えた意味を持つことになります。

 

例えば目先の利益のために環境破壊を意に介さない企業が居たとして、その企業への投資は短期的には十分な利益を生むかもしれません。

しかしその結果、地球温暖化の進展や異常気象・海面上昇などの発生により多くの企業が損害を被るかもしれず、結果としてユニバーサル・オーナーのポートフォリオ全体では投資成果がかえって悪化する可能性があります。

 

そのため、ユニバーサル・オーナーの立場からは、ポートフォリオ全体の利益を守るためにESG要因を考慮することが合理的となります。

例えば日本のGPIFは下記のようにESG投資への取り組みを説明しています。

GPIFのように投資額が大きく、資本市場全体に幅広く分散して運用する長期投資家は「ユニバーサル・オーナー」と呼ばれます。こうした投資家が長期にわたって安定したリターンを獲得するためには、投資先の個々の企業の価値が持続的に高まることが重要です。資本市場は長期的にみると環境問題や社会問題の影響から逃れられないので、こうした問題が最小化されて社会全体が持続可能になることが、長期の投資リターンを追求するうえでは不可欠といえます。 

ESG投資 | 年金積立金管理運用独立行政法人

 

非財務的な動機

非財務的な動機は大きく分けて2つのタイプがあります。

  • 母体となる組織や基金のメンバー、受益者などの価値観や規範を尊重すること
  • 受益者の利益とは何かを考えること

例えば聖職者のための基金である英国国教会年金基金は、その運用においても協会の価値を貫徹するとコミットしています。同様に大学基金の中にはその運用基準が大学の理念や価値体系に反していないことを重視する基金もあります。

 

教会や大学以外の運用機関でも、基本的人権の尊重や環境保護といった理念を尊重することは重要です。

例えば我々の年金を運用するGPIFがそういった観点を重視して運用することは、受益者である我々の価値観や規範を尊重することも含んでいますね。

また先の銃メーカーの投資対象除外も価値観の尊重を含んでいるのではと思います。

これらに共通することは、たとえ儲かったとしても倫理的価値や規範に反することはしないという姿勢です。

 

また受益者の真の利益を運用受託する機関が考えることも重要です。

例えば年金基金の運用では、最近に加入した若い受益者にとっては何十年と先の未来での利益を考えることが必要です。

単に財務的利益だけを追求する運用では先に触れたような環境破壊や異常気象といったリスクが払拭されず、いざ年金を受け取るときには荒廃しきった社会が待ち受けているかもしれません。

平和な世の中で受け取る年金と、環境破壊・異常気象が頻発する社会で受け取る年金は、暮らしにおける意味が違ってきます。将来に受け取る年金の価値は、将来の社会の状況にも左右されると考えられます。

つまり受益者の関心事としては単に年金がきちんと支払われるかだけでなく、健全な環境や社会、将来世代の繁栄など、財務的要素以外にも広がっているはずであり、運用機関としてはその点も考慮したESG投資が重要となるわけです。

 

 

以上簡単ですがESG投資をする動機を財務的・非財務的な動機の観点でまとめました。 各項目についてはさらに深い議論がなされていますので、興味ありましたら参考文献を一度手にとってみてください。

次回は、ESG投資とは具体的に何をすることなのかについてまとめたいと思います。

ESG投資 新しい資本主義のかたち

ESG投資 新しい資本主義のかたち