米国の金融関連企業についてです。
一口に金融といっても銀行・投資関係から保険まで幅広い事業領域となります。
最近では、2008年頃に起こったサブプライム住宅ローン危機と、それに続くリーマン・ショックによる金融危機が印象に残ったイベントでした。
その状態からどの程度まで回復できているのかに興味があります。
バンガード・米国金融セクターETF (VFH)を参考に
バンガード・米国金融セクターETF (VFH)は米国の金融セクター銘柄で構成されたETFであり、「銀行、抵当・不動産金融、消費者金融、専門金融、投資銀行・証券会社、資産運用会社・資産管理銀行、企業への貸付、保険、金融投資などの業務に従事する企業で構成」されています。
保有上位10銘柄と産業別構成比は下記のとおりです。産業別の構成比率を見ますと、銀行・地方銀行で45%程度を占めています。
上位25銘柄まで見ますと、AMEXブランドのアメリカン・エキスプレスやiSharesシリーズのETFを運用するブラックロックなどが含まれています。
現在、米国の4大銀行は総資産額の順にJPモルガン(JPM)、ウェルズ・ファーゴ(WFC)、バンク・オブ・アメリカ(BAC)、シティグループ(C)です。ウェルズ・ファーゴはウォーレン・バフェット氏の保有銘柄としても有名ですね。
メガバンクを取り巻く環境の変化:FinTech
メガバンクを取り巻く環境の変化として影響力が大きいものは、技術と人口動態の変化ではないかと思います。
技術の変化・進化として昨今ではFinTechというムーブメントが現在進行形で起こっています。インターネット、スマホ、安価なクラウドなどの技術進化が後押しとなり、低コストかつ高品質な消費者向け金融サービスを提供するスタートアップが急増しています。この消費者向けサービスの部分は、従来のメガバンクが苦手としてきた(あるいは見ないようにしてきた)部分ではないかと思います。
前回記事にまとめたロボアドバイザーTHEOもFinTechの一つといえるでしょう。
FinTechにより起こっていることの一つは金融サービスの“切り離し” (unbundle) です。メガバンクがワンストップに提供している各サービスをさらに細かく刻む形で、FinTechスタートアップたちは自分たちの一番得意な領域を高品質なサービスとして実現しています。
その様子を分かりやすく示しているのが下記の図です。ウェルズ・ファーゴのホームページに掲載されている各サービスについて、同じサービスを提供する多数のスタートアップがマッピングされています。消費者が受けていた銀行サービスの一部または全てを代替可能なスタートアップの多さには驚かされます。
ただ、当然ながら全てのスタートアップが順風満帆に成長できるわけではなく、特に信用が物を言う金融業界での生き残りを試されるフェーズに入ったと捉えることもできるようです。
出典:FinTechの課題と今後の方向性に関する検討会合(FinTech検討会合)(第2回)‐配布資料 - 資料3-1 株式会社WiL 伊佐山様 発表資料
上記の資料も含め、FinTechの動向については経産省のFinTech研究会とFinTech検討会合の資料が大変参考になります。下記リンク先で「配布資料」のリンクをたどってみてください。
メガバンクを取り巻く環境の変化:人口動態の変化
1980年代〜2000年初頭に生まれた世代、いわゆるミレニアル世代が米国で最大数の年齢層になったようです。米国企業としてはこの層をいかに取り込めるかが今後のポイントになると思われます。
ミレニアル世代は従来の世代とは価値観や状況が大きく異なると言われています。主な特徴には下記の4つがあるようです。
- 物心ついた時からコンピューターがあったデジタル・ネイティブであること
- 多人種 (米国の18歳から33歳のうち43%は白人以外の人種)
- リーマンショックの洗礼を受け続けていること
- 政治的に圧倒的にリベラル
米国版さとり世代「ミレニアルズ」の破壊力 | ミレニアルズ世代の真実 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
このような世代特徴を踏まえ、ミレニアル世代向けのサービス開発をすすめる金融企業も登場しています。
金融サービスに対するミレニアル世代の意見を調査したレポートとして、2014年に発表された The Millennial Disruption Indexがあります。
www.millennialdisruptionindex.com
非常に示唆に富んだ内容であり、要点を抜粋すると以下のようになります。
- 53%が銀行のサービスに差はない考えている
- 71%が銀行の話を聞くくらいなら歯医者に行く方がいい
- 1/3が今後90日以内に利用する銀行を変えてもいい
- 4大銀行は、ブランドランキングで下位10位内に選ばれた
- 33%が銀行は必要なくなると思っている
- 約半数がスタートアップによる銀行業務の改革に期待
- 73%が大手銀行の提供するサービスよりもGoogle、Amazon、Apple、Paypal、SQUAREなどが提供する新しい金融サービスの方に期待
既に大手銀行からの乗り換えが発生しています。その理由の一つは「大きい銀行の個人向けサービス料金が高いことだ。口座維持や当座貸越、現金自動預払機(ATM)利用などの料金が大手金融機関は高い。」とのことです。ミレニアル世代はゆくゆくは住宅ローンや投資などで金融サービスを利用すると見込まれるため、大手銀行としてもどうやってこの世代を引きつけるかが課題と思います。
経営状況を見てみる
JPモルガン(JPM)
年 | 純利益 | 営業CF | 売上高 | 営業CFマージン |
2014 | $21,745 | $36,593 | $91,973 | 39.8% |
2015 | $24,442 | $73,466 | $89,716 | 81.9% |
2016 | $24,733 | $20,196 | $90,307 | 22.4% |
(単位:百万ドル)
ウェルズ・ファーゴ(WFC)
年 | 純利益 | 営業CF | 売上高 | 営業CFマージン |
2014 | $23,057 | $17,529 | $88,372 | 19.8% |
2015 | $22,894 | $14,772 | $90,033 | 16.4% |
2016 | $21,938 | $169 | $94,176 | 0.2% |
(単位:百万ドル)
バンク・オブ・アメリカ(BAC)
年 | 純利益 | 営業CF | 売上高 | 営業CFマージン |
2014 | $5,520 | $30,795 | $96,829 | 31.8% |
2015 | $15,836 | $28,347 | $93,514 | 30.3% |
2016 | $17,906 | $18,306 | $93,662 | 19.5% |
(単位:百万ドル)
シティグループ(C)
年 | 純利益 | 営業CF | 売上高 | 営業CFマージン |
2014 | $7,310 | $46,343 | $69,606 | 66.6% |
2015 | $17,242 | $39,737 | $68,024 | 58.4% |
2016 | $14,912 | $53,932 | $62,565 | 86.2% |
(単位:百万ドル)
営業CFマージンが80%を超えるなど、見たことのない数値が散見されます。これがどういう状況なのかは勉強不足でよく分かりません。
代わりに、企業に対する世間の期待値でもある株価の推移を見ることで、各社の置かれた状況を推測してみます。
(出典:Yahoo Finance)
現在までの10年チャートにおける4大銀行の株価推移です。グラフを見ますと、リーマン・ショックからの株価回復の傾向は2極化しているようです。
リーマン・ショック前の株価を大きく回復したのはJPモルガン (JPM)とウェルズ・ファーゴ (WFC)です。それぞれ10年前から+79.4%、+50.75%の成長率です。ただ、ウェルズ・ファーゴは昨年に不正口座開設の不祥事で問題となりましたし、完全に信用を回復したとはまだ言えない状況に思います。
一方、株価がまだ回復できていないのはバンク・オブ・アメリカ (BAC)とシティグループ (C)です。特にシティグループはリーマン・ショック以降の株価がずっと低迷しています。
今後は、大手銀行としては継続して信用回復に務めるでしょうし、FinTechのような新しい技術トレンドや将来のミレニアル世代との向き合い方に注目していきたいと思います。