資本財サービス企業についてみていきます。
以前に調べた生活必需品や一般消費財は主に消費者向けサービスの企業についてでしたが、資本財サービスは企業向けサービスがメインとなります。
バンガード・米国資本財・サービス・セクターETF (VIS)を参考に
バンガード・米国資本財・サービス・セクターETF (VIS)は米国の資本財・サービス・セクターの大型株、中型株、小型株に投資するETFで、「資本財の製造・販売、商業サービス・商業用品の提供または運輸サービスの提供のいずれかを事業の中心に据えて」いる企業で構成されています。
保有上位10銘柄と産業別構成比は下記のとおりです。
銘柄別ではGEの構成割合が抜きん出ています。次いで3M、ボーイングと続きます。
産業別ではコングロマリットが約2割の比率でトップです。VISの構成銘柄でコングロマリットに含まれる企業としては、GE、3M、ユナイテッド・テクノロジーズ、ハネウェル・インターナショナルなどとなります。
資本財とは
「資本財」の定義を確認します。
資本財とは、将来の生産のために使用する機械、設備、原料などの財のことです。生産財は広い意味では土地や労働まで含みますが、資本財という場合は土地と労働を除いた中間生産物、ないしは手段のことをいいます。資本財は流動資本財と固定資本財に分けられ、1回限りの使用で消耗する原料、材料などを流動資本財といい、長期にわたって使用される機械、装置、工場設備などは固定資本財といいます。
また資本財は、その財が耐久性を持つか持たないかで、中間財(非耐久資本財)と投資財(耐久資本財)に分けられることもあります。
なお、投資財は普通,資本財と同じ意味に使われています。
資本財は工場で使われる機械や設備、原料などを指すようです。資本財を扱う企業はB2Bビジネスがメインということですね。
GEの最近の動向では、3Dプリンター企業の買収がありました。既に2社を買収済みですが、自社の生産性工場と3Dプリンターの事業化のためにさらなる買収を検討しているとのことです。3Dプリンターが新たな資本財として事業を拡大すると考えているのだと思います。
GEの3Dプリンターによる航空機エンジン・パーツ製造についての解説動画です。
経営状況を見てみる
GE(GE)
年 | 純利益 | 営業CF | 売上高 | 営業CFマージン |
2014 | $15,233 | $27,709 | $117,184 | 23.6% |
2015 | -$6,126 | $19,891 | $117,386 | 16.9% |
2016 | $8,831 | -$244 | $123,693 | -0.2% |
(単位:百万ドル)
経営状況としては2015年は純利益がマイナスとなり、2016年は営業CFがマイナスとなっています。2015年は金融部門の売却の影響のようです。
GEは選択と集中を事業戦略の中核においており、どのビジネスもその産業分野でのシェアが1位か2位であることをビジネス存続の条件としています。金融部門の売却もその一環でしょう。そして今は3Dプリンターへの投資に積極的なことから、3Dプリンター産業でのトップシェアを本気で取りに来ていると思われます。
まだ不安定な経営状況ながら、その戦略性には期待しております。将来的には投資候補として検討していきたい企業です。
3M(MMM)
年 | 純利益 | 営業CF | 売上高 | 営業CFマージン |
2014 | $4,956 | $6,626 | $31,821 | 20.8% |
2015 | $4,833 | $6,420 | $30,274 | 21.2% |
2016 | $5,050 | $6,662 | $30,109 | 22.1% |
(単位:百万ドル)
営業CFはほぼ横ばいですが、営業CFマージンは20%以上をキープしています。経営状況は良いようです。
ポスト・イットで有名ですが、コングロマリットである同社の事業分野は非常に多岐にわたっており電気・電子分野(主に素材)、医療・保健・ヘルスケア分野(世界的聴診器ブランド Littmannなど)、交通安全用品など、多くの資本財事業を展開しています。最近では山手線の新型車両のラッピングに3Mの素材が使われていました。
同社は勤務時間の15%を自由に使って良いという15%ルールで有名な企業です。後にグーグルが20%ルールとして取り入れていることがわかり、様々な企業でも同様の施策が試行されています。その15%ルールがポスト・イット誕生にも寄与していたことが公式サイトで解説されています。
3Mは経営状況も安定しており今後も代表的なイノベーション企業であり続けると思います。ぜひ投資したい企業です。
ボーイング(BA)
年 | 純利益 | 営業CF | 売上高 | 営業CFマージン |
2014 | $5,446 | $8,858 | $90,762 | 9.8% |
2015 | $5,176 | $9,363 | $96,114 | 9.7% |
2016 | $4,895 | $10,499 | $94,571 | 11.1% |
(単位:百万ドル)
営業CFは年々増加していますが、営業CFマージンが10%前後とやや低めです。徐々に上昇傾向にも見えますので、今後の経営次第ではさらに改善されると期待できます。
ボーイングの事業は、大型旅客機の製造を主とする民間航空機部門と、防衛システムや軍用機製造などの防衛・宇宙・セキュリティ部門で構成されています。
航空機関連では、新型ジェット機の納入がニュースとなっていました。一時はエンジン不具合の報道も出ていましたが、結果的に無事に納入されたようです。納入先はマレーシアのマリンド航空とのことです。
ボーイングの737シリーズは主にLCCなどの格安航空会社で使われているそうです。この新型機の特徴が主に燃費の改善であるのもターゲット顧客のニーズに応えるためと思います。
また個人的には宇宙産業発展への貢献でボーイングの動向には注目したいです。イーロン・マスク率いるスペースXとの競争も良い刺激になっているようです。
航空機製造産業はボーイングとエアバスの寡占状態ですので、経営状態としては良くも悪くも定常状態に思います。今後は宇宙ビジネスのような新しい産業にどの程度注力するのかが気になります。
ユナイテッド・テクノロジーズ(UTX)
年 | 純利益 | 営業CF | 売上高 | 営業CFマージン |
2014 | $6,220 | $6,979 | $57,900 | 12.1% |
2015 | $7,608 | $6,755 | $56,098 | 12.0% |
2016 | $5,055 | $6,412 | $57,244 | 11.2% |
(単位:百万ドル)
営業CF、マージンともにほぼ横ばいです。やや低めの営業CFマージンが気になります。
企業のルーツを辿ると、もともとはボーイングと縁の深い企業でしたが、反トラスト法により分割されてできた企業とのことです。狭義のコングロマリットと呼ばれるように事業内容は多岐にわたっています。
航空機のエンジン、宇宙産業、ヘリコプター、空調装置、燃料電池、エレベータ、エスカレータ、防火・消火製品およびセキュリティサービス、その他工業製品など、非常に多くの分野で研究開発、製造を行っている。
気になるニュースでは、トランプ政権から傘下のキヤリアが圧力を受けたとの報道がありました。こういった動向が企業の競争力低下にどの程度影響するのか気になります。
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)
年 | 純利益 | 営業CF | 売上高 | 営業CFマージン |
2014 | $3,032 | $5,726 | $58,232 | 9.8% |
2015 | $4,844 | $7,430 | $58,363 | 12.7% |
2016 | $3,431 | $6,473 | $60,906 | 10.6% |
(単位:百万ドル)
営業CF、マージンともに2016年に減少に転じています。営業CFマージンも決して高いとはいえない数値です。
ユナイテッド・パーセル・サービス(英語: United Parcel Service, Inc, UPS)は、アメリカ合衆国の貨物運送会社。フェデックスやDHLと並ぶ国際貨物航空会社でもあり、世界200か国以上の国と地域で一日あたり1400万個以上の荷物を扱っている。
またITへの投資額の多さも特徴とのことで、毎年100億USドルを超える設備投資を行っているそうです。徹底的に無駄をなくして効率を上げる姿勢が伺われます。
最近の動向としてはAmazonによる物流事業への本格参入が気になります。UPSは直接に競合することになりますが、相手があのAmazonですから、苦戦を強いられるのではないかと思います。
余談ですが、かつてAmazonがネット通販事業で従来の店舗ビジネス企業を打ち倒した様から、既存ビジネスの破壊を“amazonする”と言うこともあるようです。グーグルによって“ググる”ができたのと似ています。
Amazon
To overwhelm or obliterate, in the context of an Internet start-up vastly outperforming its brick-and-mortar competition.
消費者向けビジネスに比べれば安定的だったり寡占市場だったりしているのが資本財サービスに思いますが、一方でスペースXやAmazonといったイノベーション企業の参入による既存ビジネスの破壊も決して他人事ではない状況にも感じます。
GEが自社ビジネスのために3Dプリンターに多額の投資をしているように、このセクターの企業がAIやIoTといったテクノロジー面の発展を今後どのように活用していくかに注目したいと思います。